骨軟部腫瘍の診断や治療方法の近年の進歩は目覚しい。特に、骨軟部肉腫症例の治療成績は過去20年程度で明らかに改善されている。それには、強力な抗癌剤全身化学療法の普及のほかに、画像診断技術の進歩、手術時の切除縁の概念の普及、再建技術の向上が大きな要因を占めている。例えば、骨肉腫では、1970年代には5年生存率10%代であったが、最近では80%にまで到達した。術前に腫瘍の縮小化を図るや再建技術の進歩により患肢温存率も100%近くにまで上昇した。
腫瘍の診断では、従来の病理組織診断に加えて、遺伝子診断が重要となってきた。特に、ユーイング肉腫や滑膜肉腫では、特徴的な融合遺伝子が検出され、これが見つかることが診断の決め手となっている。従来の病理組織診断に遺伝子診断が加わることで、診断が変更される症例も多数見うけられる。画像診断では、MRIによる局所的な病態の把握は言うまでもない。近年は、ダイナミックMRIによる腫瘍の血行動態の把握や、MRアンギオも重要になってきている。また、タリウムシンチなどによる良悪性の鑑別や化学療法の効果判定も重要である。
日本の骨軟部腫瘍の治療は、各施設がばらばらに行っているのが現状であった。しかし、近年、骨軟部腫瘍の治療で大規模な臨床研究を行い、前向きの論拠を出す傾向にある。我々も、日本を統一した大規模な治療研究に参加している。現在当科で進行中の治験は、厚生労働省班会議による「高悪性度非円形細胞軟部肉腫に対するIfosfamide、Adriamycinによる化学療法の第U相臨床試験 (JCOG 0304)」、日本医師会治験促進センターの主催する医師主導型治験である「再発あるいは治療抵抗性のc-kitあるいはPDGFR陽性肉腫に対するイマチニブ第U相試験」、その他「高悪性度骨・軟部腫瘍における漢方薬十全大補湯の有用性の検討 無作為比較対照試験」、「横紋筋肉腫患者に対するVAC療法の有効性および安全性の評価 第U相試験」、「限局性ユーイング肉腫ファミリー腫瘍に対する集学的治療法の第II相臨床試験」などを行っている。
治癒率の上昇とともに、最近は患肢機能についてもよく話題になる。再建方法は、人工関節や生物学的な再建方法など様々な方法が行われるが、どの方法も利点、欠点を有する。当科の特徴的な再建方法は、鎖骨を用いた上腕骨再建方法であるClavicula pro humero法、大規模な骨盤・仙骨切除と再建、大腿骨近位・脛骨近位・上腕骨近位置のポリプロピレンメッシュを用いた人工股関節置換術、Rotationplasty、加温骨+2重プレートを用いた大腿骨骨幹部の再建、血行付腓骨移行術を用いた脛骨再建方法などである。さらに、ここ数年は、形成外科医の協力のもと高度な再建が行なわれている。一方、仙骨悪性腫瘍に関しては、解剖学的な問題や、化学療法の感受性の問題、術後の機能障害の問題などがあり、侵襲の大きな手術に対する反省期に入っている。